審美歯科 名古屋のノウハウ
風評を聞くかぎり、米国訴訟社会の脅威を知るには、彼は最適の取材対象と言える。
和解発表から半年ほど経った頃、まず東京から国際電話とファックスでインタビューを申し込んでみた。
向こうの窓口は秘書の女性だが、いま一つ本人が乗り気でなさそうだった。
「こちらはT訴訟の真相を知りたいだけで、何者も悪人と決めつけてはいない」と説得したが、明確な返答ができないという。
これ以上電話で話しても坪があかないと思い始めた頃、ちょうど別の仕事で米国に行く用事ができた。
そこで思い切って、その足でR弁護士を訪ねてみることにした。
彼は現在、テキサス州ヒューストンから車で約一時間半ほどのボーモントという小さな町で、R・M.A・K法律事務所の共同経営者を務めている。
到着した翌日、二○○○年四月三日の朝、地元のB・H・ホテルから事務所に電話を入れた。
「坪があかないので日本から会いに来た」と言うと秘書の女性はビックリした様子だった。
少しでいいから時間を割いてほしいと頼むと、上司と相談してみると言ってくれた。
それから三時間後、今度は彼女から電話が入った。
午後二時半、R弁護士がオフィスで会見に応じるとのことだった。
彼のオフィスはボーモント市内にある煉瓦造りの濡酒な建物のなかにあった。
Tに巨額和解金を命じた連邦地裁は道を隔てた目と鼻の先である。
初対面のW・Rはどっしりした体格だが、どこか怯えて落ち着かない感じだった。
話す英語にも少し南部訛りがあり、朴訪な印象さえ与える。
J・Gの法廷サスペンス小説に登場する、話術で相手をねじ伏せるエリート弁護士とはかなり違うようだ。
まず会見に応じてくれたことに礼を言うと、彼は開口いちばん、「あなたには悪いが、自分は日本のジャーナリストに強い不信感を抱いている」ときた。
何があったのかと聞くと、ある大手新聞社の電話取材に応じた折り、高額な報酬目的に訴訟を乱発する悪徳弁護士といった記事に仕立てあげられたという。
苛立たしげに彼が咳いた。
「あれは、初めから、自分の偏った印象を作る意図があったに違いない。
日本の読者はそれを信じ込んでいる。
正直言って、あなたに会うのも気が進まなかった」と。
以下はインタビューの一部である。
「Tパソコン訴訟のきっかけは何だったのですか」と。
「ある日、私の友人の医者が泣きながら電話をかけてきた。
どうしたのかと聞くと、彼は金曜日に白血病を患っている女性の診察を行ったらしい。
彼女はかなり具合が悪そうだったが、検査機器で白血球を調べたところ、正常値を示していた。
そこで友人は、『血液の数値は正常だし、少し神経質になっているようです。
とりあえず自宅に帰り、具合が悪ければまたいらっしゃい』と帰宅させた。
ところが、土曜日の深夜、彼女は容態が急変して病院に移送され、日曜には死亡してしまったのだ。
白血球がきわめて異常な数値を示していたらしい。
それを知った友人は、慌てて保管していた彼女の血液を再検査した。
すると、今度は正しい数値を表示したではないか。
結局、検査機器で使われている半導体の故障が原因だったのだ。
それまでも半導体の欠陥について耳にしていたが、重要性がよく理解できなかった。
しかし、その白血病患者の女性から、半導体の欠陥は人間の生命をも脅かす問題だと認識させられた。
「死亡した女性と家族には心から哀悼の意を表しますが、それとTのノー卜型パソコンがなぜ結びつくのですか」と。
「T製のコンピュータは、それと同じ半導体のマイクロコードを備えていた。
他の機器で欠陥が発生したということは、Tの製品でも起きると思っていい」と述べている。
「しかし、Tのノート型パソコンではまだ一件の苦情も来てないんですよ。
なのに巨額の和解金を払わされた。
それがTに同情を誘う理由でもあります」と言う。
「日本人も少しは常識を働かせてほしい。
はたしてTのような大企業が、何の理由もなしに一二億ドルも払うのかと。
われわれは数百万枚のT関連書類を集め、一枚一枚を読み込んで整理した。
その結果を突きつけるまで、上層部は真実を知らなかった。
彼らの部下の技術者や管理職が本当のことを知らせていなかったのだ」「では、実際の欠陥や苦情は発生していないというTの主張は嘘だというのですか」と。
「その通りだ。
彼らに聞いてみればいい。
FDC(フロッピー・ディスク制御装置)で年間に何件の苦情が寄せられているかと。
東芝は半導体自体に苦情はないと言うだろうが、それによって制御されるFDCに苦情はないのかと。
これは言葉の遊びにすぎない」と。
「それを証明する具体的な証拠はありますか」と言った。
「ある。
しかし、Tは和解の際、証拠書類の大部分を機密扱いにするよう要請してきた。
世間に公表したくないのだ。
私も話せることに制限がある。
彼らに言ってくれ。
『Tよ、お前たちが真実を明らかにしたいなら、なぜ、証拠書類を隠すのか。
弁護士になぜ洗いざらい話させないのか』と。
そうすれば、なぜTが和解に応じたか真相が分かるはずだ」実際の和解金額は二倍このインタビューの後、隣のボーモント連邦地裁を訪れ、T訴訟関係の書類を見せてもらった。
たしかに証拠書類の一部に機密扱い(プロテクティブ・オーダー)が出されていた。
もし、これがTの要請によるものなら、彼らはよほど納得のいく説明をしなくてはならない。
自分たちには非がなく、ハイエナ弁護士W・Rの犠牲者というなら、なぜ、裁判書類を公開禁止にする必要があるのか。
世間に知られたくない何かが存在し、カバーアップするためと推察されてもしかたないではないか。
念のため、T本社に問い合わせてみた。
すると「(命令が)出されているのは承知している。
原告、被告それぞれの代理人と裁判所との話し合いで、適正な訴訟手続遂行のために合意されたもの」(広報室)との返事で、結局、明確な説明はなかった。
奇妙なのはこれだけではない。
二○○○年一月に同地裁のH判事が承認した和解文書には、原告と被告の弁護士の署名と並んで、「一二億ドル」という金額が記載されていた。
しかし、当時、日本での発表で東芝は「和解にかかる費用は二○○億円」(約一○億ドル)と発表しているのだ。
和解文書の金額とでは二倍のギャップがあるではないか。
これについてTは、一二億ドルは、将来のパソコン購入者への効果想定額なども加算した名目上の和解最大限という。
「(二一億ドルは)名目上の価値であるとの認識を前提に契約にサインしたものであり、和解に伴って実際に当社が負担する費用は一○億ドルであるとの判断に変わりはない」(広報室)そうだ。
つまり、正式の和解金額は二一億ドルだが、Tは独自の算出方法をもとに、実際には半分の負担額を発表したことになる。
しかし、これもおかしな話だ。
双方の弁護士が署名した書類に「一二億ドル」とある以上、Tはこの金額も併せて発表すべきだろう。
国内のマスコミや株主は、「和解にかかる費用は二○○億円(約一○億ドル)」という発表を信じ切っているのだ。
それを無視したのは、うがった見方をすれば、あえて少ない金額を発表することで、自社の株価への影響を最小限に抑えようとしたのか。
ともあれ、訴訟書類の公開禁止といい、和解金額のギャップといい、不透明な部分が残る。
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